雑記

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『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑥


安永 義夫
金星堂
1995-01

『The Luncheon』by Somerset Maugham ⑥

私たちはアスパラガスが調理されるのを待っていた。私は恐怖に襲われた。今やその月の残りのために、いくらお金を残せるかと言う問題ではなくなっていて、この支払いに足りるだけの金を持っているかどうかが問題になっていた。
10フラン足りなくなってしまって、そしてお客からお金を借りざるを得ないことになったら、それは屈辱的だった。
私はそんなこと自分にさせる気になれなかった。
私は自分がいくら持っているかを正確にわかっていた。もし勘定が自分が思っていた以上になっていたのならば、次のようにしようと覚悟に決めていた。まずポケットに手を入れて、大げさな叫び声を上げて立ち上がり、「金をすられた!」と言おうと。
もちろん彼女も支払いするに足るだけの金を持ち合わせていなかったならば、大変なことになるだろう。
そんな時、唯一できることといえば、私の時計を置いていって、「後で支払いに戻ってくるから」と言うことだけだろう。

アスパラガスが現れた。巨大で、瑞々しく、食欲をそそるアスパラガスであった。
【エホバ:旧約聖書、創世記第8章20節ー21節】溶けたバターの匂いが、私の鼻腔をくすぐった。エホバの鼻腔が徳の高いセム人(ユダヤ)の焼いた捧げ物の匂いでくすぐられたように。その遠慮のない女が、アスパラガスを求め、大口いっぱいに頬張って、そして喉に下すのを眺めていた。そして丁寧に愛想よく、私はバルカン諸国で起こっている劇的な事件の状況について語ったのだった。
ついに彼女は食べ終わった。